なんかビヨンビヨンしてますけど…!
pinterestで鉄工技術の探し物をしていたら、図らずとも運命の鉢合わせ。
pole lathe(ポールレイス=竿旋盤)というらしい。
13世紀にはサン・ルイ聖書(1226-1234年頃)に登場していたらしく、800年前からある旋盤が今でも使われているなんて摩訶不思議!
語感的に「足踏み旋盤」がしっくりきたので、この記事では足踏み旋盤と呼びますよ!
足踏み式には他にも “threadle lathe“(踏み板旋盤=足踏みミシンと同じような機構)、”bow lathe“(弓旋盤=摩擦発火の火熾こしと同じ機構)などがあるもよう。pole latheは竿旋盤が一意な呼び方だとは思うけど、なんかピンと来ないので、動力の直接的な動きである「足踏み」を冠するのがわかりやすいかなと。
そもそも旋盤(せんばん)とは?
旋盤とは、回転する軸に材料を固定し、そこに固定した刃物を当てて「かつらむき=切削加工」する機械の名前。
中でも金属を切削するのが金属旋盤、木を削るのが木工旋盤。
金属旋盤は、精度のいる軸を削り出したり、ものの平面を出したり、機械製作には幅広く使われる道具です。
木工旋盤は器やサラダボウルのようなものを作ったり、野球のバットや椅子机の脚を作ったり。
木工旋盤自体はラフな手作りでもなんとかなりがちな機械なのに対し(食器やバットにはそこまで精度が求められていないので)、金属旋盤は極めて精度が求められる精密機械の華、みたいな印象です。
ちなみに私テンダーは金属旋盤はよく使うけど、木工旋盤は一時期ちょびっとやって、今あんまりやっていない、という状況。だから木工旋盤自体が上手なわけでも、特に詳しいわけでもありません!
電動木工旋盤は危ないことがある
んで、回ってる材料に刃物を当てるので、当然当たり方が悪ければ刃物が飛ぶか、材料が飛ぶかのどっちかなわけです。木工旋盤で材料に「刃物が食う」ことをキャッチと言い、キャッチすると刃物が折れたり、回してる材料が顔に向かって弾き飛ばされたり、それはそれは恐ろしいことが起きる可能性があります。
足踏み旋盤を知るまでは、キャッチは木工旋盤の宿命だと思ってたんだけど、ポールさん(=足踏み旋盤)を知ってからは「すごい力で回して&早く削りたい」からキャッチは起きるのだ、と思うようになりました。
要は、足踏み旋盤ではキャッチで刃物や材料が飛ぶことはほぼ起きない。回転させているスピードも力も極めて小さいので、足踏み旋盤はなんだったら子供でも体験できる旋盤だと思う。スローイズビューティフル!
もちろん、電動旋盤の方が加工は圧倒的に早いので、日々量産が必要なものや、作業速度が求められるものには電動旋盤が向いていると思いますよ! あと表面の仕上げも回転速度が早いので、電動旋盤の方が綺麗だと思う。
さっそく足踏み旋盤を作る
というわけで裏山に行って、手頃な杉の木をチェーンソーで伐倒し、矢(クサビ型の鉄塊)とハンマーで半割りに。
その後、電気カンナやらドリルやらチェーンソーやらを使いつつ、心押し棒(軸)は鉄の丸棒を金属旋盤で尖らせたり、バーナーで炙って叩いて曲げたりして、あれよあれよと2日ほどで足踏み旋盤の完成。
なるべく粗野に作るのが流儀っぽいので(ガチな海外勢は、電動工具使わずに作るのがツウっぽい)、先人にならって粗野にしました。樹皮がついたままなのでめっちゃカミキリムシ来る。
ポール(バネ部)はジャパナイズで笹をば。ビヨンビヨンはいい感じ。
その後、いくつか改良を加えつつ、使いつつ気づく。
これは良い!
足踏み旋盤の良さ
無電源、非金属機械なので野晒しにできる
何を言ってるんだ、と思われるかもしれないけれど、木工旋盤と製材機は山に近けりゃ近いほどいいと私は思っていて、
まず、山で剪定したり間伐したりしたままの木は生木なので柔らかい。そして濡れてるので重い。
足踏み旋盤のパワーは弱いので、柔らかい生木を切削するのにピッタリ。そして削ることで重量が軽くなるので山から持ち運びがしやすくなる。
さらに削り屑がウッドチップとして、山の地肌を守り土の流出を防ぐことにつながるわけで、
- 山の木の間伐や剪定で、山のお手入れをして風通しが良くなり、
- 足踏み旋盤を使うことで人間は売り物や日用品が生産でき、
- 持ち出すものは軽くなり、
- ウッドチップがばら撒かれることで山土が保全される!
なんじゃこりゃ! いいことばっかりじゃないか!
これぞ人間の仕事だ!
そしてこの時に、電動木工旋盤だとまず重い(振動防止のため)し電源いるし、高価だから置いといて盗まれちゃう可能性もあるから山へ持ち込むことをそもそもしない、というかできない。
ところが足踏み旋盤は無電源&金属部品がほぼないので、雨ざらしにしても致命的な事態にならない。(もちろん屋根があった方が長持ちしますよ)
このラフさってのは、人と山を近づけるうえでとてつもなくでかい要素だな、と思ったわけです。
そして山に置いておけるから、それがまた人が山に行く理由になる。
昔の炭焼き小屋とか窯とか、こんな感じだったんだろうなぁ。
たいへん静か&弱いために安全
そしてモーターがないためにとても静か。なんだったら夜でもできちゃう。
かたや電動旋盤を使った時は、ずーっとモーター音聞いてるのね。
自然物である木を加工してるはずなのに、ゴーグルつけてマスクして、ずーっとモーター音聞きながら、キャッチで吹っ飛ぶことを心配しながら器作ってる。ものができるのは楽しいけど、思ってたほどハッピーな加工体験じゃない、てのが自分の正直な電動旋盤の感想。
足踏み旋盤は前述した通り、パワーが弱いためにほぼキャッチ&吹っ飛びが起きない(キャッチが起きるシチュエーションでは材の回転が刃物に引っかかって止まって終わるだけ)。
もちろんモーター音もしませんよ!
山に行けば作れる
もうね、こういうことだよね。
斧と鋸とハンドドリル持って山に行って、あとはハンマーと太い釘2本があれば足踏み旋盤はできちゃう(紐は繊維植物から編めますぜ)。
非常に原始的でありながら、明らかに機構を持った機械であり、精密なものすら作れるのに、本体を含めゴミとなるものを残さない。
これぞ人間の仕事だ!(2回目)
ここ数年、大地の再生という環境再生技術の勉強を始めて、植物の剪定をやってるんだけど、剪定枝って毎年かなりたくさん出るのね。
大地の再生自体では、そういった剪定枝も環境改善の材料として柵みたいなのに大量に使ったりするんだけど、足踏み旋盤の場合、剪定枝自体を売り物に変えられるので、「山に行くと具体的に儲かる」という状況を作り出せる道具だな、と。
また、電動旋盤と違って木の節理を無視できないので、節は切れないし、繊維方向の向きや樹種の違い、乾燥具合の影響を大きく受けると思う。
これはデメリットとされがちなことだと思うんだけど、自分にとっては木のことをよく知るために非常に重要なポイントでした。
日本で、なぜこんなに細かく樹種によって作られるものが違うという風土文化を持ったのか、それは力技で抑え込めなかったから。逆に言えば、強力なモーターは節理を無視できる。うむ。
こんなのできるよ! 足踏み旋盤で作ったもの
というわけで、まだまだ始めたばっかりなので少ないですが、作ったものをご紹介。
他にもいくつかあったけど、人にあげちゃったりなんだりで手元に写真がない。
マレット(木槌)
慣れてきたのち、初めにマレット(木槌)作った。
これは足踏み旋盤の操作上必要なもので(心押し台の位置をクサビを叩き込んで止めている)、これも先人にならって粗野に。この時はまだ2種類しかバイト(刃物)を使ってなかったので、切削の輪郭がぼんやりしてる。
材はイヌマキの剪定枝。
コロコロの柄
いきなり卑近な例だけど、10年もののコロコロのプラの柄が崩壊してたので、カイヅカイブキの剪定枝で柄を作った。亜麻仁油を塗り込んだら、途端に溢れる高級感。柄って大事!
四十肩治し棒(デフロスティック)
これは知り合いの鍼灸師さんが「四十肩にはライトセーバーの殺陣がすげー効く!」と言っていたので、真似してアレンジした振り回し用の棒。
四十肩は英語で frozen shoulder (=凍った肩)というらしいので、この棒のことは defrostick(=デフロスティック / 解凍棒)と呼んでいる。尖った方と丸い方との両端でツボ押しできるし、膨らんでるところで首筋をゴリゴリ押したりもできる。要は重くて長いマッサージ棒ですな!
その効果のほどはと言うと、(私も四十肩になったのだけど)デフロスティック振り回してたらかなり寛解した。
実は作ったものの中で一番のお気に入り。材はエノキ+亜麻仁油
エノキ(榎)は「柄の木」が語源、という説があるそうな! 足踏み旋盤の友たる木!
おまけ: シラカシでさっき作った第二弾のデフロスティックの持ち手(ブレードは別に作って合わせるつもり)。
カシはいいね、重くて存在感ある。
器類はまだできてない…
いえね、本当は木のお皿作りたくて始めたんだけど、これに関しては電動木工旋盤の方がずっと簡単で(チャックという材料保持部品が大変優秀なため)、足踏み旋盤の「両センター支持」という材料の押さえ方だとお皿作るのが難しいのです。。。
というわけで鋭意頑張り中です!
足踏み旋盤では、「マンドレル」というロープを巻くようの部品を材料に打ち込んでからお皿を作ります(=マンドレルを作る&マンドレルがピッタリハマるお皿の木地を作る必要がある)
2024.5/9 追記
やっとこさ器できました!
器を作るために、
- マンドレル製造の精度が上がった
- Tip up fook という刃物を、マイナスドライバーから火造りして作った
- 足踏み旋盤のツールレスト周りの剛性を上げる工夫をいくつかした
の3点が必要でした。いやはや、足踏み旋盤での器作りは高度ですな。
樹種はたぶん、ヤブツバキ。青みが差してて綺麗。
粗野であれ
さらっと書いてきたけど、粗野。
材料の押さえ方の話に出てきたチャック、これは普通の電動旋盤では三つ爪チャックとか四つ爪チャックとか呼ばれるものが付いていて、非常に強力に、片側だけで材料を掴めるのね。
足踏み旋盤も、両センター支持をやめてチャックを使えば一気に使いやすくなると思う。
足踏み旋盤を始めてから、何度も「チャックに変えようかな…」と逡巡したんだけど、その度に髭を三つ編みにした古風なヨーロピアンたちが、ハンドドリルとでかいノコギリで足踏み旋盤を作る映像が脳裏をよぎって改造をやめた。
チャックをためらう理由の一つは、値段がいきなり上がること。
チャックだけで1〜2万円するのと、そのチャックを取りつけるにはベアリングや、他の保持機構の金属が必要になる=道具の近代化が進む。
また、これまで書いてきたようにラフに使えなくなり、もちろん野晒しもできなくなる。ベアリングが錆びたらどうにもならないからね。
もう一つは、それをやってしまったら改善にキリがないこと。
心押し台の固定を、面倒なクサビ式ではなくカムロックレバー式に変えようとか、
刃物台も自由な角度にできる金属製にしようとか、
ポールのバネで回転を戻していると行き戻りの片側しか切削できないから、クランクを入れて無限回転の足踏みミシン式にしようとか、
そんなことをし続けたら、どんどん金属比率が増えて、ただの電動じゃないだけの近代的旋盤になってしまう。
足踏み旋盤の良さは、シンプルさと誰もが「えー? へー! やってみたい!」と思える近さ、フレンドリーさなんだと思う。複雑な機構を入れた瞬間にその良さは帳消しになる。人力であればエコだから良い、といった狭量な話ではないのだ。
それを担保する概念が、足踏み旋盤の場合「粗野」なんじゃなかろうか。
粗野さは、人間の側に寄せすぎずに金属化に抗う、行き過ぎた文明への反骨のシンボルだ。
というわけで、足踏み旋盤は粗野たれ!(この記事のまとめ)
(とか言いながら、全然粗野じゃない普及版を設計中・・・乞うご期待!)
2024.5/10 追記
できちゃった! 折り畳み足踏み旋盤!!!
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