4、5年前に興味本位から3000円で買った、ジャンクの縄ない機・台座ナシ機構部分。
駆動部が錆びついて回らなかったり、部品が欠損していたりとほどほどの状態だったんだけど、
このたびモリトクラシトメカニクスの講座で縄ないを扱うにあたり、一念発起、あらかた直しました!
縄ない機ってなあに?
稲藁や繊維植物を綯(な)って縄にするための機械。
なんでも、化繊登場以前の農家さんは夜な夜な縄をなう生活だったらしく、その負担たるや大変なものだったそうな。
大分工業高等専門学校の報告書によると、
佐賀県佐賀郡の農村で生まれ育った宮崎林三郎氏は,
足踏み式藁縄機の復元と改良 https://onct.oita-ct.ac.jp/library/public/kiyo-45_pdf/No45_p10-15.pdf
「縄ない機こそが農家に幸福と利益を与える」と製縄機開発に生涯を捧げる決心をした.
1905 年(明治 38 年),図 2.2に示す製縄機開発に成功し,製縄機の開祖と呼ばれた
縄ない機こそが農家に幸福と利益を与える。
なんちゅうパワーワードだ・・・!
私テンダー、農家じゃないけど縄ない機を直せば、幸福と利益のおこぼれにはあずかれるはず……たぶん!
この記事は、需要が数件であろう「縄ない機修理ログ」です
誰か必要な人がいるかどうか、さっぱり見込めない情報ではあるけれど、それでも大事なことだと思うのでここにログを残します。
私が直した縄ない機ちゃんは「イセ号」。
現状日本語ログではイセ号については一切見当たらないので、貴重な情報となるはず。
錆びつき補修&オイル差し
そもそも50〜100年くらい前の機械だろうから、錆びついて当然、油切れてて当然。
ギア部や軸周りにはマシンオイルを差して何度も回転させて馴染ませる。最初はどこも回らなかったけど、繰り返し繰り返しちょっとずつ動かしていけば、歪みがない限りは快適に回るようになるものです(経験者談)
それと、あくまで人力で扱う機械なので、油は軽いのがいいと思う。グリースみたいなのでも多少踏み心地が重くなるので。
ボルト類がJIS規格じゃない問題
古い機械なのでJIS規格のネジピッチじゃないのは当然なんだけど、どうやら前の持ち主があまり機械に詳しくない人だったらしく、ホームセンターで買ったような新しいネジを、ピッチの合わないところに無理にねじ込んだりしてて、その結果きちんと締結できておらずそこが磨耗したり、、、などなど。
古い機械に新しくネジ穴開け直したりが感覚的に嫌だったので、ここは大人しく一回り小さいボルトナットで締め直したりしました。
ラッパ管どうするか問題
おそらく、日本中の縄ない機ユーザーが知りたいであろう、「ラッパ管どうするか問題」。
ヘイヘイわかってるぜ、これがこの話の核心だということを。
ラッパ管とは?
ラッパ管というのは、その名の通りラッパ状に開いた管で、2本一対、それぞれが藁束をねじりながら縄ない機コア部に引き入れる役割を持っていて、
はっきり言って、縄ない機がうまくいくかどうかはラッパ管で8割決まると言ってもいいくらい重要(だと思う)。
この管の上の方に伸びてるビロビロは、それぞれがバネ性を持った薄板で、螺旋状にねじれる12本(*イセ号の場合)がうまいこと組み合わさっていて、
- 不定なサイズの藁束にバネで追従フィットしながら、
- なんとなくいい感じに摩擦を与えることで藁束をねじり、
- かつ薄板でバネなので、藁束が多すぎても、藁を切ったり傷つけずに適度に逃げる
などなどの複合的な機能を持っているわけです。
ただし、もはや替え部品として売ってるわけもなく、ラッパ管の寿命=縄ない機の寿命、という状況になっているのでは、と推測する次第。
そしてラッパ管は繊細かつ、もはや古いので必ず壊れる。
現に復元試運転で一本のラッパ管の薄板ビラビラ部が破損しました。
サビで腐食していて、そもそも強度がとても落ちていた模様。
そしてビラビラが破損すると、藁を保持しなくなるので、もはや機能しなくなってしまう。
みんなで作ろうラッパ管
というわけでテンダー考えました。
- 安価に
- 誰でも手に入る部品で
- 日曜DIYレベルで
ラッパ管を作れる必要が、現状ある。
とりあえず、イセ号のラッパ管を入れる穴の内寸を測ったらおよそ19.1mm。
…19.1mm?!
19.1mmって言ったらアンタ、DIYerや農家が慣れ親しんでいるビニールハウスパイプの規格とピッタリ一緒じゃないの。
そして、何を隠そう私ったらビニールハウスパイプでたくさんドームハウス作ったから、ハウスパイプの端切れをたくさん持っていて、試しにイセ号に突っ込んだら…
なんと19.1mmパイプのスエジ部分(swage=カシメ)がシンデレラフィット!
そういうことなら話は早い。
ここをこうして(試しに八分割)、
ラジオペンチなんかで曲げて、
スカートをトタン板(今回はガルバリウム)で作って、ハンダづけでくっ付ければ……
どこからどう見ても完璧なラッパ管!
オーイエス。わかってるわかってる、こんな簡単にできねえよ、って言いたいんだろ?!
スカート部分
スカート部分を作るのには、Templatemaker.nl の 穴あきコーン生成機能を使ったぜ!
このサービスは、板金やレーザーカットでも便利に使えるからブックマークしといてくれよな。
(なぜか翻訳されていない Glue Flapは「のりしろ」のことだ!)
イセ号のラッパ管スカート部分の数値はこちらで作りました
上部の直径 22
底辺直径 46
高さ 25
Glue Flap Angle 70°
Glue Flap Size 7
板金のハンダづけ
ハンダづけは、十分に大きい板金用のハンダゴテを使うことをお勧めする。電子回路用20Wとかだと綺麗にやりにくい。
あと、今回は手持ちのガルバリウムでやっちゃったけど、鉄板の方が断然くっつけやすいと思うので、0.3mm厚くらいのトタンとか、薄板をハサミで切ってハンダづけするヨロシ。
ビラビラ部分の曲げ加工
ビラビラ部の角度は、正直なところ、なんとも言えない。
実際に藁をねじる試運転をしながら、「どのくらいの量を入れて、どのくらいのねじれが欲しいか」を体感で掴んで調整するしかないと思う。
そして、ビラビラの角度調整は上手にやらない限りパイプの外に膨らみができて、機械本体の穴に差し込めなくなるであろう。その際はヤスリやグラインダーで削るのだ。
そして、ビラビラの出口径が大きいほど、詰まりにくくガサガサ材料を入れられるが、どっちみち引き取り機構側のパイプ径で引き取れる縄のサイズは決まってしまう。
だからといって出口径を小さくすると、一度に継ぎ足せる藁の量が減るために縄ないの難易度が格段に上がる。
また、2個のラッパ管のねじり度合いが極めて近くないとよろしくない。
ねじり度合いに差ができると、2本を撚ったときに縄が美しく仕上がらない(=強度が低い)。
いやー、シビア!
それと、純正ラッパ管と違って、ハウスパイプラッパ管(リズムがいいね)はバネでもないし肉厚もあるので、純正ほど優しく藁をねじってはくれないぞ!
もし旋盤があればビラビラに切り分ける前に、内側から肉を削れば純正に近くなるだろうけど、その分強度と寿命も落ちるので、そこら辺は好みに応じて。
ただし、肉削ってない ハウスパイプラッパ管でも 必要十分 藁ねじれるぞ♩
Check it now!
シュート(藁を置く場所)を足した
イセ号にはシュートがなかったので、可動型のシュートを作って足した。(使わない時は畳める)
シュート本体は単管(φ48.6)を真っ二つに割ったものを使ったけど、これじゃ径が小さかった。もっと大きいシュートの方が、藁が脱落しなくて良い。
一時的にテストするだけなら段ボールで作っても良いでしょう。
めでたく直った縄ない機
見よ! ハウスパイプラッパ管の実力を!
バッチリ十分。数百円の投資で十分ねじれている。
…いやあ、こういう機械が手元にあると、不必要に縄作っちゃうよね!
縄ない機を復元して使った結論
縄ない機の速さについて
結論。直したものの縄ない機は操作が難しく、かつ下準備がいるので、
50cm-100cmくらいの縄なら手でなった方が断然早い。
ちなみに私は50cmなうのに、急いでやれば30秒くらい。
(昔のテレビで私の倍くらい速い人の映像を見た記憶があるが、その時はまだ縄ないを嗜んでいなかったので、本当に早かったのか定かではない)
縄ない機に入れるための下準備(ハカマという不要物を取り、濡らし、叩いて繊維を潰す)がそれなりに大変。
ちょっとでも横着すると、それが原因で詰まったり繊維が切れたりする。
ところが、手でなう場合は、かなり雑多な藁でも簡単に「縄に治める」ことができてしまう。
その準備の時間の差がとてもでかい。
ただし、5M以上作るなら縄ない機の方が楽だと思われる。長くない続けようとした時の、「綯い」自体の楽さは圧倒的に縄ない機。
材料選び イネ・ヒエは難しいのかも → チガヤ最強説
もらいもののヒエで試運転を繰り返したのだけど、いかんせんヒエ藁が切れてしまう。2Mなうのも難しかった。
ちょっと分解が進んでいる感じのヒエではあるけれど、なんというか繊維に粘りがないというか、素直というか。
イネ藁の場合は、もうちょっと違う感じもするけど、手元に大量にないのでテストできず。
あれこれやった結論は「チガヤ」が簡単。圧倒的に簡単。
チガヤの場合、
- 下準備がいらない(鎌で切ったらそのまま縄ない機に投入できる)
- 元の方が線のように細いので、縄ない機に投入した時に詰まらない(藁は根元が太いので、この真逆の事態が起きる)
- おいそれと繊維がねじ切れない
- 一本一本が長いものがたくさんある(繊維植物の一本が長ければ長いほど、投入間隔を遅くすることができるので調整と思考が追いつくようになる)
- 農家じゃなくても手に入る
・・・じゃあチガヤの方がいいじゃん!
というわけで、30分で農家の幸福25メートル分(チガヤver)が我が手中に!
なかなか均一なチガヤ縄。素晴らしい! 青いのも良い。
縄のクオリティについて
イセ号は、回転式のピョロピョロカッターがついていない(縄ない機には、電動髭剃りみたいな回転刃を藁縄側面に当てて、藁縄からピョロピョロ出てる継ぎ藁を切り落とす機構のものがある)。
ゆえに、仕上がりがまさしく「荒縄」になる。ガサガサしていて、あまり綺麗ではないし、どうしても継ぎ目や強度にムラがある。
かたや手でなうと民芸品としての「縄」になる。美しくて強い。
一言で言えば、縄ない機を使うと何のために縄をなうのか? が問われる。
縄ない機は、私の認識だと「劣化したクオリティの、ただし物を縛るにはほどほど十分な縄を大量に速く作るための機械」です。
縄ない機で縄ないを練習している間、茅葺(かやぶき)の話を思い出していて、
そもそもチガヤで葺いた屋根は40年保つものらしいんだけど、戦後に大量のチガヤを得られないが、家を建てまくらなければいけない状況で、やむなくコメの生産の副産物としての稲藁を使ったら7、8年しか保たなかったらしい。
けれど人の認知はチガヤのことなんてすぐに忘れて「『茅葺』は長持ちせずに金と手間がかかる」と置き換わってしまうだろうから、「代替品(亜流)によって本流の価値が失われ、廃れた」という図式があったのでは、私は思っている。
もし縄ない機が登場せず、「縄は美しいもの」という認知を人々が持ち続けていたら、化繊が登場しても手ないの縄の技術や文化は廃れなかったかもしれない、ということなどを考えた修理期間でした。
まあ、こんなこと書きながら、縄ない機大好きなんですけどね。
豪快で面白い。
それゆけ現代っ子! 3Dプリント化でオープンソースにするんだい!
んでですね、私、縄ない機直しながら思うわけですよ。
「こんなでかくてゴツい必要あるのか?」って。
おそらく鉄部品を鋳造でしか作れなかった時代に、今から見れば限られた部品や機構でなんとか作ろうとした知恵の結晶があの形であって、現代の知恵を交えればもうちょい違う形になるんじゃなかろうか、と思うわけです。
というわけで、早速エイヤー!
テンダー設計、遊星ギア式卓上縄ない機。
ずいぶん冗長な機構な気もするけど、ひとまずV0.5ということで。
ただいま3Dプリント中、しばし待たれよ!
おまけ
縄ないの歴史について、レファレンス協働データベースでのまとめ。
図書館データベースは偉大だ・・・!
質問
①荒縄の歴史について知りたい。(始まりはいつごろかなど)
②荒縄の製作機械にはどういうものがあるか。(モーター式・足踏み式など)https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?page=ref_view&id=1000091143
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