オープンソースクリーンベンチを開発しました!

こんにちは。鹿児島県南さつま市にある日本最大級のファブラボダイナミックラボで代表テンダーさんの元で修行中のJuriと申します。
今回の研究成果は菌の世界のお話です
目次

クリーンベンチ開発に至った経緯

この度、このダイナミックラボでオープンソースのクリーンベンチを開発しました。
クリーンベンチとは一体何なのか、それは後ほどお話します。 ファブラボとは、様々な工作機械を備えた誰でも自由に使える工房。「使うモノを、使う人自身が作る文化」を目指したネットワークのこと。 ここでモノを作ることだけに限らず、自然と共生する暮らし方を体験して学びながらたくさんのことを教わりました。

Juriの生い立ち

少し私の話をしますと、小さい頃から自然が大好きで、将来は生き物に関わる仕事がしたい!という想いで、理系の道を志しました。 大学時代は南米へ飛んで、コスタリカで野生動物保護NGOでボランティアとしてナマケモノやアライグマのお世話をしたり、無人島で海ガメの卵の保護活動をしながら、理学部の研究室に籠もって実験を繰り返す毎日を送っていました。
海ガメと一緒に泳ぐ私(これはメキシコの海)
卒業後は、JICA青年海外協力隊としてブラジルへ渡航。
ブラジルでビーチバレーをするチームのメンバーと私
約8ヶ月の活動ののち、新型コロナウイルスの影響で日本に緊急帰国することとなり、現在このダイナミックラボに滞在しております。 ダイナミックラボを営む環境活動家テンダーさんは、地球の限られた地下資源をどう使うか、私たちが普段スイッチ一つで使うことのできる電気やガスもどのようにして得られたエネルギーなのかと、物事の本質を捉えて自分の選択に責任を持つ必要があると考えています。 その思想に触れて今までの自分の環境保護論が一変し、毎日胸が揺さぶられるような学びの日々を送っています。 当初1ヶ月の滞在予定だったのですが、気がついたら一つの季節が過ぎ、4ヶ月も経っていました。
毎日自然と共に暮らすテンダー家の子どもたちとJICA隊員
ここでは太陽の熱で暖められたお湯で体を洗い、薪を焚いて煮炊きをし、排泄物が流れる浄化槽は自分たちで処理をしています。
薪を焚いて煮炊きしているところ
ここでの毎日の学びを語るにはとてもここには書ききれないので、割愛させていただきます。 そんな生活を送る中、私がクリーンベンチを開発することになったことの発端は、テンダーさんのある提案でした。 「うんちの中の大腸菌を調べたいんだけど。」 というわけで、なぜテンダーさんがうんちと大腸菌に興味を持っているかをお話しします。

私たちの排泄物を生態系に循環させる「コヤッシー」

ダイナミックラボでは、私たちが生活する中で出る生ゴミなども生態系に循環させるためにコンポストを使用しています。コンポストとは「堆肥(compost)」のことです。 また、コンポストトイレは、水を使わずに微生物活動によって排泄物を処理するトイレ。 従来の水洗トイレのように一度に大量の水を使って汚水を生み出しながら排泄物を処理するのでないコンポストトイレは、水不足や汚水問題など、数々の問題を解決してくれるものに思えました。 しかし、微生物活動を活発化するためにヒーターで温度調整したり、モーターで排泄物を攪拌する必要があります。微生物が活動しやすい環境を作るために熱や電気などのエネルギーを使うわけです。有限のエネルギーをどう使うかを追求しているダイナミックラボで過ごしている私には、それが腑に落ちませんでした。 さて、ここでテンダーさんが開発したKoyassy(コヤッシー)の登場です。 コヤッシーは、これまで「トイレ」と呼ばれていた道具で、私たち人間の排泄物を養分として回収し、生態系に循環させて活用させようというものです。
生態系を育む。ヒトから窒素を回収する。「Koyassy(コヤッシー)灰エンドモデル」完成!
テンダーさん曰く、コヤッシーはコンポストトイレとは設計思想がそもそも違います。 コヤッシーには熱源も電気も必要ありません。糞便に灰をかけて混ぜるだけで無害化し、有機物として回収しようというのです。 そもそも糞便というのはほとんどが水分(約70%)で残りの30%は不消化物や腸内細菌やその死骸などです。 うんち=臭い という認識は、微生物活動によって産出されたメタンガス(さらに尿が混ざるとアンモニアガスも発生)によるもの。 コヤッシーでは、強アルカリ性の灰をかけることで微生物を死滅させて(強酸性または強アルカリ性条件下では生きていけない微生物が多い)糞便を無害なものにし、さらに堆肥にしてしまおうというお話なのです。 実際にテンダーさんは自宅ですでにコヤッシーを使用していて、匂いもほとんど気にならないと言います。 やはり灰によって微生物が死滅しているのか、、? これを実証するために「本当に灰をかけることで微生物が死滅するのか」を検証することになりました。 たびたび病原菌として登場するのは大腸菌ですが、全ての大腸菌が悪さをするわけではありません。むしろ腸内細菌の中で最も多いのが大腸菌です。 ですが一部の病原性大腸菌によって感染症が引き起こされたり、そもそも糞便中の大腸菌が大量に増殖してしまうことが衛生的に問題があるとして、様々な分野で汚染指標菌として扱われます。 アフリカで同じことをしているエコサントイレも大腸菌の死滅を指標に「灰をかけて糞便を無害化する」としています。
便+植物の灰→たい肥  ※エコサントイレの公式ホームページによると、6ヶ月で大腸菌などが死滅

参考文献:エコサントイレ
このような理由から、私たちも大腸菌を指標菌として安全性を検証します。 そしてその検証のためにクリーンベンチという道具が必要なのです。

クリーンベンチとは

クリーンベンチとは、菌を扱う実験を行うための無菌環境の作業空間です。 クリーンベンチの構造自体はシンプルで、
  • ファン(モーター)
  • フィルター
この3つのパーツで構成されています。
クリーンベンチの模式図
フィルターを介した風が箱の中を通って、作業スペースである前面部分から風が吹き抜けます。 特殊なフィルターを使用しているため、そこで菌は捕集されて(99.97%)箱の中は常に無菌空間に保たれます。 よくよく調べてみると、大学時代に私が使っていたクリーンベンチは約180万円するということが分かりました。ひえええ。
私が大学時代に使っていたクリーンベンチ
クリーンベンチの仕組みを説明する私に間髪入れず「それって箱とフィルターとモーターじゃね?作れるじゃん!」とテンダーさん。

ズドーーーン!! なぜ今まで思いつかなかったんだ、、!! この時、私はファブラボにいながらファブラボのことを全く理解していなかったのです。 今までクリーンベンチは、”研究者だけが使うもの”と私は考えてきました。 研究室にしかないから研究者しか使わない。用途も大学や企業の研究内容に限られます。 しかし、クリーンベンチの操作自体はとても簡単なのです。そんなクリーンベンチを安価で作ることができれば、研究者でなくても使えるようになります。 気軽にクリーンベンチが使えるようになれば、この雨水タンクの水は安全なのだろうか。傷口に破傷風菌はいないだろうか。と言った日々の生活に結びついた菌の実験ができるようになるかもしれません。 さらに身近な話をすると、キノコ菌を家で培養して好きなキノコを食べられるようになるかも知れません。またダイナミックラボのある鹿児島(日本一の焼酎県)で日本酒を製造することだってできるかも知れません。(酒税法により、1アルコール度数1%未満なら醸造OK!) 例えば、”家の近くを流れる川にはこんなにも菌がいる!”というようなことを知るだけで、普段は目に見えないモノや現象(でも確かにそこに存在している)が身近に感じられ、自然に対する認識が変わると私は考えています。 研究者としての私の発想にはなかった、日々の生活に根ざした小さな菌の世界を可視化できる可能性を感じ、クリーンベンチを使ってどんな面白いことができるだろうとワクワクしながら、

  • オープンソース・クリーンベンチの開発
  • コヤッシー実用化に向けて大腸菌培養実験
この2つを軸に私のプロジェクトが始動しました。(テンダーさんはスーパーバイザー的存在)

クリーンベンチV1の開発

そんなこんなで始まったオープンソース・クリーンベンチプロジェクト。 仕組みは至極簡単なのですが、流体力学や電気への理解、DIY技術・知識が乏しく、モーターのスペックを知るために電気の知識を学び、最適なファンを見つけるために風圧や風量、空気抵抗の計算をし、そんなことから一つずつ理解していく作業にはかなり骨が折れました。

今回使用したモノその1 箱

今回使用したのはこちら。 アスベルのキッチンBOX 1680円
ホームセンター コメリで購入したキッチンBOX。パッキンもついていて気密もとれている。

今回使用したモノその2 フィルター

クリーンベンチのフィルターにはHEPAフィルター (High Efficiency Particulate Air Filter) という定格風量で粒径が0.3 µmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもつエアフィルター(JIS Z 8122)を使用することが規定されています。空気中の埃などを取り除いて清浄空気を作り出し、市販の空気洗浄機などにも使用されています。
クリーンベンチ 送風機及びHEPAフィルター又はULPAフィルター(Ultra Low Penetration Air Filter)を内蔵し,作業空間を一定の空気清浄度に維持する

参考文献:日本工業規格(JIS B 9922)
今回はじめに検討したのは、掃除機用のこちらのHEPAフィルター。
家庭用小型扇風機とHEPAフィルターを連結させて風力を検討
写真のような小型扇風機から業務用の大型扇風機まで色々試しましたが、このHEPAフィルターではどうしても風がまっすぐ通らず、十分な風量が得られず断念。 次に検討したのはAliexpressで購入したSUMSUNGの掃除機用フィルター
換気扇用のHEPAフィルター
うん。これなら風が一直線に通るし、十分な風量が得られそう。

クリーンベンチ のパーツ ファン(モーター)

モーターはラボにあった最も風力のあるブロワーを使用。
モーターとして使用したブロワー
このブロワーのスペックは100V、450Wで、風量としては十分すぎるくらい。 ただ作業する上で弊害になりうるほどの騒音で、オープンソース化に向けては再考の余地あり、といった感じ。 ブロワーから掃除機のチューブを取り付け、HEPAフィルターとの結合部分は3Dプリントでアダプターを作成。
Fusion360で設計したチューブとHEPAフィルターの結合アダプター
3D設計も初めてだったので一からテンダーさんに教わり、自分で設計しました。 こうしてできたクリーンベンチV1がこちら!

じゃん!

クリーンベンチv1
連結部分は気密をとるためにシリコンで隙間を埋めています。 数々の壁を乗り越え、やっと完成したクリーンベンチV1。 ここまでが長かったのですが、まずは第一難関突破というところ。 ところが、第二難関はすぐに現れました。

寒天培地の性能検討実験

これをクリーンベンチと呼ぶには、無菌環境の作業空間であるのか実証しなければなりません。

準備するもの

  • 寒天培地(微生物の栄養分)
  • 70%エタノール(器具の消毒用)
  • マッチやライター(器具の火炎滅菌用)
まず、寒天培地とはなにかと言いますと、微生物実験などで使われる培地のことで寒天の他に炭素源、窒素源などの微生物が育つのに必要な栄養分が入っています。 大学の研究室などでは市販の寒天培地を使用するのですが、今回は自分で作ってみました! 寒天培地を作る上で、一番重要な組成から検討しました。

自作寒天培地の組成

  • 純水(精製水が望ましいが、今回は煮沸させた水を使用) 500ml
  • 寒天 7g
  • グルコース(砂糖)5g (炭素分として)
  • 肉エキス 5g (窒素分として)
  • NaCl(塩)1g (pH調整のため)
この組成で実際に菌が培養できるか試してみましたが、手のひらの菌、土壌中の菌、水道水中の菌、どれも思うように菌ができません。 増殖の早い菌なら培養開始から24時間程度でコロニーができてもおかしくないのですが、なかなかコロニーはできません。一週間経過してようやく手のひらの菌のコロニーができました。
[自作寒天培地] 対照する用に何も培養していないcontrol培地(左)とアミターブさんの手のひらの菌(右)
自作寒天培地で菌が培養できることは実証できたのですが、やはり何らかの要因で十分に培養できていないことは確か。 砂糖の代わりにデンプンを使ったり、窒素分、炭素分の分量を変えてみたり、色々試行錯誤を重ねましたが、やはり上手くいかず、これではメインのクリーンベンチの性能評価ができない!ということで今回は止むなく市販の標準寒天培地を使うことに。

モノタロウで購入した一般生菌数測定用 標準寒天培地

購入した市販の標準寒天培地
この市販の標準寒天培地の組成はこちら。

市販標準寒天培地の組成(23.5g(1L分)中)

  • カゼイン製ペプトン 5.0g
  • 寒天 15.0g
  • 酵母エキス 2.5g
  • ブドウ糖 1.0g
ためしにヨーグルトに含まれる菌を培養してみました。
[市販標準寒天培地] 白い塊がヨーグルト、薄い色の塊ができた菌集落(コロニー)
24時間後、予想通りコロニーができました。 これで、市販標準寒天培地には菌の生育に十分な栄養が含まれていることが分かったのでいよいよクリーンベンチの性能検証です。

クリーンベンチの性能検証

  1. 試料を混合
  2. 試料の滅菌操作
  3. クリーンベンチ内でシャーレに分注
滅菌方法として一般的によく使われる高圧蒸気滅菌は、2気圧の飽和水蒸気によって温度を121℃に上昇させて20分間処理することを指すのですが、圧力鍋がなかったので今回は100℃で20分間の高温処理を行いました。(本当は圧力鍋などで高圧蒸気滅菌するのが望ましい)
圧力鍋がなかったので高熱滅菌処理。
滅菌処理が終わったら約50℃まで温度が下がるのを待ち、クリーンベンチ内でシャーレに約10 mlずつ分注します。冷めたら蓋をして、クリーンベンチから取り出して冷蔵保存します。 使用したのはモノタロウで購入したディスポシャーレ PS製 (滅菌済み)
今回使用したシャーレ
クリーンベンチが無菌環境の作用空間として機能していれば、寒天培地に菌が入ることなくコロニーはできないはず。 寒天培地には菌が生育するための栄養が十分なので、菌が入ってしまうと物凄いスピードで増殖し、24時間後には菌集落であるコロニーが見られます。 コロニーの有無によってクリーンベンチの性能評価をします。 24時間後、、、

コロニーができていない!!

これでクリーンベンチ性能検証できました!

市販のクリーンベンチのような厳密な性能評価はできませんが、大腸菌の検出には不足のない無菌環境を獲得したクリーンベンチができました。

灰で本当に大腸菌が死滅するのか

いよいよ「本当に灰をかけることで大腸菌が死滅するのか」検証実験に取り掛かる段階まできました。(ここまでが長かった、、、)

クリーンベンチ操作方法

  1. 手を肘くらいまで石鹸で洗う
  2. スイッチを入れてから、扉を開け、作業終了時まで常時風を送り続ける。
  3. クリーンベンチ内を70%エタノールで隅々まで拭く
  4. クリーンベンチ内に器具やサンプルを持ち込む場合は70%エタノールで除菌してから持ち込む。
  5. 無菌操作を行う。
ポイントは、菌が動く方向と風の流れを意識して作業をすることです。

灰による大腸菌の生育阻害実験

冒頭でお話した通り、コヤッシーを使用する上での安全性を検証するために大腸菌を指標として評価します。 実は、竹灰で大腸菌などの腸内細菌が不活性化することは論文ですでに発表されているのですが、
参考文献:竹・バーク燃焼灰における殺菌・消臭効果


(バンブーマテリアル(株))○岡田久幸,宮崎龍一,(鳥取大学)伊藤啓史
竹からできた灰だけでなく、紙や植物を燃やした灰でも同様の結果が得られるのかを検証するのが今回の実験の目的。(ダイナミックラボでは煮炊きには全て薪を使用しているので灰がたくさんあります。)

今回は大腸菌のみを指標として評価するので、大腸菌群のコロニーのみが選択的に赤く染まるデゾキシコレート培地を使用。

モノタロウで購入した大腸菌群用デゾキシコレート寒天培地

 大腸菌群用のデゾキシコレート培地
デゾキシコレート培地は食品の大腸菌群検査に広く用いられている培地で、こ
の培地の原理は、大腸菌が乳糖を分解することで、赤色のコロニーを作ることができるというもの。
デゾキシコレート培地に見られる大腸菌コロニー
(日水製薬株式会社公式ホームページより)
デゾキシコレート培地の顆粒4.5gを計測。
標準寒天培地と同様の手順で培地を作ります。 注意点は、高圧蒸気滅菌しないこと。(熱に弱い培地のため品質に影響が出る)
実際にクリーンベンチv1で寒天培地を作っているところ

今回使用したサンプル

同じような食生活(肉食)、生活習慣を送っている3人にご協力頂き、それぞれの糞便をサンプルとして使用しました。 排泄ごとに糞便に対して3−5倍の灰をかけて細かい粒子になるまで攪拌します。
攪拌して3ヶ月経過した灰と糞便の混合体
こんな感じ。 こちらは3ヶ月経過後の灰と糞便の混合体(=以後、「灰便」)ですが、うんちの匂いは全くせず、さらさらの灰ののようになっています。 これで灰による糞便の消臭効果も体感できました。 さらに、この灰便を排泄日を0として経過時間ごとに分けます。
使用した灰便サンプル。文字はご協力いただいた方のイニシャル、数字は経過時間を表します。
これらをデゾキシコレート培地に培養します。 赤いコロニーができれば、灰によって大腸菌が死滅しなかったということ。 赤いコロニーができていなければ、灰によって大腸菌は死滅しているということ。 では早速やってみましょう。

準備するもの

  • 灰便サンプル
  • 灰を混ぜていない糞便(対照用)
  • 精製水(今回も煮沸水を使用)
  • 70%エタノール
  • デゾキシコレート培地(サンプルの数必要)
今回使用したサンプルは、1〜6ヶ月経過した灰便と排泄後1日後の灰を混ぜてない糞便。

実験方法

  1. それぞれのサンプルを0.1 g計測。
  2. クリーンベンチ内で各サンプルを精製水1mlに希釈。
  3. できた希釈液を寒天培地に滴下。
  4. 24時間培養し、コロニーを観察。
各サンプルを0.1g計測
サンプルに精製水を滴下するところ
滴下直後の寒天培地。これは6ヶ月経過後の灰便。
これらを常温で培養します。 24時間後、灰をかけていない糞便には明らかに赤いコロニーが見られました。
灰をかけてない糞便
その他の灰便サンプルではいずれも24時間経過時点では、赤いコロニーが見られませんでした。 これで、攪拌後1ヶ月経過した灰便には、24時間後にコロニーを形成するほどの大腸菌はいないという結果を得ることができました。

いやー長かった!

2020.10/11 12:00追記

今回の実験では、サンプルとして比較的粒度の小さいものを選んでしまったために、灰に対して糞便の比率の少ないサンプルを優先的に選択した可能性があるとテンダーさんから指摘を受けました。粒度の大きいサンプルを抽出して同様の実験を行うと異なる結果が得られることも考えられ、この実験に関しては今後も検討の余地あり。

オープンソース化に向けたクリーンベンチV2の開発

無事、クリーンベンチV1では無菌環境を獲得ことができたのですが、私たちの目的はこれをオープンソース化すること。 V1は、まず”実際にあるもので作れるか”、”無菌環境の作業空間として機能するか”ということを検証するために作製し、無事実証することができました。 次のステップは、世界中どこでも手に入る材料を使って誰でも簡単に作れる設計にすること。 V1で使用したHEPAフィルターは特定の掃除機専用のもので、まずはそのHEPAフィルターが手に入る環境が必要だったのですが、オープンソースにするということを考えれば、決まった枠に対して自由にHEPAフィルターの形を変える方が設計上効率がいいと考え、今回はこちらを使用しました。 Aliexpressで購入したロール式Hepaフィルター (1650円/20枚入り)
 今回使用したHEPAフィルター
市販にも数万円程度(それでも最低5万円はする、、、!)の簡易型クリーンベンチがあり、V2作製の際には、そのクリーンベンチのスペックを参考にしたました。(最初から見ておけばよかった。)
市販の簡易型クリーンベンチ (5万円〜)
実際にクリーンベンチに搭載されているモーターを参考にして今回使用したのがAmazonで購入したHon&Guanの浴室用換気扇(2970円)です。
今回使用した浴室用換気扇
この換気扇をこのように箱に取り付けた場合、箱の中から外に風を送る機構になっています。
制作途中のクリーンベンチV2。換気扇なので上方向に風が出ていく
しかし、私たちが欲しいのは箱の内側に風を送る機構。
制作途中のクリーンベンチV2。矢印方向に風を送りたい
どうにかして下方向に風を送りたい。 ファンを反対に付け替えたらいいのでは?
ということで分解しちゃいます。 ファンの表裏を入れ替えるには軸の大きさが少し足りないので、ボール盤で径を大きくします。
これでファンの入れ替えは完了。 さらにモーター回転方向も変えなければなりません。 分解すると中にモーターがあるので、モーター軸を上下入れ替えます。(そもそもこの入れ換えにより、逆転できるような設計になっている)
あとは元通りに組み立てます。
次に、今回クリーンベンチの箱として使用したのはダイソーのスタックボックス。
値段も600円と、前回の2000円より大幅にコストダウンできました。 ※V2の作製については大部分、スーパーバイザーテンダーさんに技術面のお手伝いをお願いしました。
換気扇の大きさに合わせてカッターでちまちま切ります。
綺麗に切れました。(テンダーさんありがとうございます) 換気扇には壁に取り付けられるようにネジ穴が空いているのでその穴に沿って箱にも穴を開けます。
ネジを閉めて、ボルトで固定します。
元々通っていた配線のままだと箱の天井部分とファンの間に隙間が空いてしまうので、
配線をジョキンと切って配線の位置を変えます。
切った配線は、被膜を剥がして切った配線同士を捻じ合わせて、ビニールテープで絶縁します。あとは、それぞれ絶縁した配線をビニールテープで巻いておきます。
こんな感じ。 そしてフィルターの取り付け。 ファンの上からフィルターを取り付け、タイラップを二重に重ねて密閉します。
結局かなり後加工の多い設計になってしまったのですが、シンプルで美しい仕上がりになったと思います。
完成したクリーンベンチV2
こちらもV1同様、性能検討実験を行いました。 標準寒天培地を用いて24時間後にコロニーができるか観察し、
24時間後、こちらも無事コロニーは見られませんでした。 これでオープンソース向けに最適化したクリーンベンチV2が完成しました! V2は制作費用4000円で、市販の簡易クリーンベンチと比較しても約1/10以下の値段で同等と言えるスペックを持つクリーンベンチを作ることができました。 DIYもほぼ初めてでオープンソースの世界に初めて飛び込んだ私にとって、本当にゼロからのスタートだったこのプロジェクト。 予想の10倍以上のリソース(時間と労力、材料も含め)を使っての完成となりました。まだまだ改良の余地もあり、100点満点はつけられないとしても今は達成感でいっぱいです。

オープンソース・クリーンベンチのこれから

クリーンベンチV2までの作製は終わりましたが、まだ完成ではありません。 私は、今まで研究者としてクリーンベンチに携わってきたので、研究者の域を越えた発想がなかなかできないのですが、誰もが使えるようになることで研究室からは生まれない自由な発想で、もっとおもしろいことができるかもしれません。 三人寄れば文殊の知恵です。 そんな風に、私の元から羽ばたいても世界の誰かの人のアイデアと工夫によって進化を続けていってほしい。 そう願ってやみません。 また、簡易クリーンベンチと比較しても1/10のコストで作れるようになれば、今まで10万円を払ってまで菌の実験をしたいと思えなかった人も好奇心から実験をすることができるようになります。 菌は私たちの生活に欠かせない存在です。体の中で働いてくれたり、美味しい食べ物を作ってくれたりもします。菌のことを知る一つの方法としてクリーンベンチを使う。そんな風に身近に扱えればいいなと考えています。

私がこのプロジェクトを通して学んだこと

このオープンソースプロジェクトを通じて、研究者でなくても自分の好奇心を追求することで、自然を知り、向き合うことができることに気付きました。 そもそも研究とは日々の生活と結びついているはずなのに、いつの間にか試験管の中の世界と私たちが生身で生きている世界は断絶されているように感じます。 義務教育ではたくさんのことを覚えたはずなのに、それらは机上の知識にすぎず、生きる知恵として身に付いていませんでした。 また、メディアなどが普及した今の時代では、無知であるばかりに社会に出回った常識に無思考に同調してしまい、歪んだ視点で世界を認識してしまうこともあります。 実際に私がダイナミックラボに来る前は、プラスチック問題に関心があったのにも関わらず、正しい知識も持たずに、”プラスチックは悪だ”と信じていました。 ここに来て、その認識が変わったのは、自分で学び、体験することで、自分で考えられるようになったからです。 このオープンソース・クリーンベンチを使って、多くの人が気軽に実験することができると、世の中の科学的な現象を日々の生活に結び付けて考えられるようになるのではないでしょうか。 そうして世界を身近に認識できれば、私たちの住む地球に対してもっと責任を持って接することができるのではないか、そう思わずにはいられません。(自戒も込めて) ダイナミックラボでの日々は、たった4ヶ月でしたが私の人生に大きな影響を与えてくれました。 私のプロジェクトはここで一旦終了し、ダイナミックラボを去ってしまいますが、ここで受けた返しきれない恩をいつか倍でお返しできるようにこれからも精進して参りたいと思います。 ここまで読んで下さってありがとうございました。 それではまた!

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 初めまして。
    ファンの羽がどうしても取れないのですがご教授いただけないでしょうか?

    • 随分前の話なので、細かいファンの構造を覚えてないのですが、一般には「逆ねじ」か「嵌め合い」で固定されているはずです。
      逆ねじは左に回すと閉まるねじなので、右に回せば外れるはず。
      嵌め合いの場合、「プーリー抜き」という、別の道具が必要かもしれません。(使ったような気もする)

      うちで使っているのはこれで、このためにわざわざ3本セットを買う必要はないと思いますが、色々分解&修理をされるのであれば持っておいて損はないと思います。

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