やあ! みんな聞いてくれ。
とうとう
アルミゴミを拾ってくる(アルミ缶とかアルミサッシとか、いらないアルミ鍋とか)
↓
溶かしてインゴット(塊)を作り
↓
CNC(データ通りに切削する機械)で面出し
↓
CNCで金型を彫る
↓
プラごみを拾ってくる
↓
プラごみを破砕する(ペレットを作る)
↓
出来たペレットを金型に流し込んでプラ商品生産!!!
を達成しました。今日はその話を詳しく!
まず七輪でアルミゴミを溶かしてインゴットを作る
前準備1:七輪をパワーアップさせる
ホームセンターで1500円くらいの七輪(いわゆる練り物)を買ってくる。
(写真はイメージ図)
これ単体でもできると思うけど、燃料をセーブするために、若干改造を加えます。

どん。
みんな大好き工作のお供、エンジンオイルのペール缶(ガソスタでもらえるはず)。
なんと今回の七輪は、このペール缶にエクストリーム・ピッタリだったので、持ち手だけ外して、ペール缶に七輪を落とし込む。

さらに空気吸入口あたりに単管(48.6φ=直径48.6mm)サイズの穴を開け、単管を突っ込んでドライヤーとジョイント。
ちなみにペール缶は金切バサミで切れます。

たったこれだけの作業で、風が直接あたらなくなったことと、空気の断熱層ができるので、大幅に熱損失が減った(はず)。
名付けて七輪改!(しちりんかい)
前準備2:アルミを溶かすお鍋を作る
市販の手鍋でも溶かすことはできるのだけど、鍋の厚みが薄いと鍋自体の蓄熱量が少ないため、火からあげると途端にアルミが冷めて固まってしまうので、

ちっちゃなプロパンボンベを真っ二つにして、


溶接で注ぎ口と、持ち手(といっても鉄棒をひっかけられるフック)をくっつけました。
溶接環境が整わない人はなるべく厚手の鍋を買う、でもいいと思う。ただ、厚手の鍋は高いからね!
それともちろん鉄製の鍋ね! アルミ製は溶けちゃうからね!
ちなみにアルミの融点は660度、
鉄の融点は1535度、
バーベキュー炭の到達温度は700〜800度くらいまではいきますぜ!

というわけで無事完成。かっこいい。
前準備3:インゴットの金型を作る

Lアングルを溶接してフレームを作り、これを鉄板でサンドイッチする金型を作った。ついでに若干の抜き勾配も付与。
あとから考えたらこの方法は全然ベストじゃないんだけど、作っちゃたので今回はこれで。
前準備4:七輪改に炭を入れて、アカアカのアツアツにする

今回は安いバーベキュー炭を投入。硬い炭の方が長時間燃えて温度も上がっていいに決まってるけど、お値段も上がっちゃうので今回はバーベキュー炭。

ドライヤーのcoolモード(温風の必要はない)で送風して、炭全体に火が回ったところで鍋をON。

今回、主に使うのはアルミサッシの廃材。ダイナミックラボにいっぱいあって、3年屋外に放置しておりました。サッシちゃん、君の出番だ!

最初に鍋に投入するのはなるべく小さくて薄いアルミ片。小さいものは溶けやすく、一度解けると溶けた液体状のアルミ(鋳造用語では「湯」と言います)ができるので、次からは湯にアルミゴミをくっつけるとすぐ溶けるようになる。

湯が足りないとせっかくの作業が失敗に終わるので、湯は多めに作る。
余ってもまた溶かすだけのことなので問題なし!
ノロを取る

アルミが溶けて湯が増えてくると、湯の表面にモサモサした塊が出てくる。これがノロ(=スラグ)で、不純物やら酸化物やら、今必要のないものの集まりなのです。
これをひしゃくなどで取り分ける。これをやらないとインゴットの中に境目ができたり、アルミではない塊が入ったりする。ただし永遠に酸化皮膜はでき続けるので、ノロを取るのもほどほどに。
いよいよ鋳造! インゴットを作る

湯の量が十分になったら、ノロを取ってすぐに金型に流し込む。
金型の湯を入れる場所には石粉粘土で湯口(ゆくち)が作ってあり、こぼさず流し込めるようにした。
いやー、注いだ!
注いだった!
十分に冷えてから金型を開ける
冷却が十分じゃない状況でインゴットに衝撃を与えると、インゴットは簡単に割れるので、ある程度冷えてから金型を開ける。
ちなみにこういう冷やす系はゆっくり冷やすのが一番。急速にやると内部と外部の温度差が生じて歪みやヒビが入ったりする。
いざ、開封!


おお! 四角い! どうやら大きなス(穴)があるっス!
一回じゃよくわからないので、とりあえずいくつか作ってみる。

ただし、面によっては多少スが入っている。これは湯の温度や、金型内部での湯の動きや、なんやかやの結果なんだけど、このときはどうすれば改善できるか、何回かやってみたもののわからなかった。
というわけで完全ではないけれど、今回の目的は完全な鋳造ではないので、ひとまず必要十分なアルミインゴットができました。

もうね、嬉しくてこの日は一緒に寝たね!
(アルミのインゴットと)
翌日、インゴットの面出しをする

一夜を共にしたアルミのインゴットちゃん(アル美ちゃん)、ほどほど精度が出てるんだけど、表面には凹凸があるので、フライス面出しをする。
「フライス面出し」は、新規参入ラーメン店のこだわり製法の名前ではなく、簡単に言えばドリルの刃を一定の高さで縦横無尽に動かして、完全な平面を作ろうとする作業のことです。
もらいもののCNCルーターにインゴットちゃんをセット。3DCAMソフトでもあるFUSION360でCAMデータを作成、6mm軸の6mmエンドミルで面出し開始。
しかし、これが悪夢の始まりであった・・・・。
やってから理解する。俺、CNCのこと知らなすぎだ・・・!
一回面出しして、なんとなく平面ぽいもののどうにもおかしい。左右の高さが違いすぎる。

そこで金属加工の鬼である原先生(義父)に聞いてみたところ、
「そりゃお前、テーブルが柔らかすぎんだよ!」
とあっさり看破。
どうやら使っているCNCの作業面がMDF製で柔らかいために、エンドミルが作業面を押し込んで(逃げて)、場所によって深さが変わるもよう。
そして、定盤(じょうばん)にできる材料もこの時点ではダイラボにほとんどなく、クランプもたいして持ってなく、ごまかしごまかし、削っては狂い、狂っては削りを繰り返し数日。
最終的には手やすりで削り、義父の指導の下、ハイトゲージで精度出しました。(アナログ万歳!)


ちなみにアルミを削るときは木工用の波目ヤスリを使うんだぜ!
鉄工用ヤスリだとすぐに詰まっちまうからな!(義父の教え)
というわけで死屍累々。なんとかできた平面ぽいアルミインゴット(昨日より美しくなったアル美ちゃん)。

フフフ、、、やや鏡面!
いよいよ金型を彫る!
この時点ではCNCの理解もそれなりに進み、暫定ではあるものの工業的な分厚いアルミ板をテーブルにして、それなりにガッチリしたホールドができるようになった。
というわけでいよいよ、CAMデータ投入します!
今回作るのは Precious Plastic Library で公開されていたPiranha Clamp(ピラニアクリップ)を、多少ダイナミックラボ仕様にアレンジしたもの。


今回はFUSION360で作ったCAMデータを、Grblで制御してるCNCにUniversal Gcode Senderで送って切削(自分でも何言ってるかよくわからない)。
切削スピードは遅め、最終的には0.5mmのボールエンドミルを使ったので、かなり遅く・浅く削った。待つこと4時間、みたいな感じ。

おおー! アル美ちゃん 惚れてる 彫れてる!
その後、ビットを数本折るというCNCのお約束を経て、とうとう金型が完成!

ちなみに、一般的な金型はひと揃い100万円の世界らしいですぜ・・!
(もちろんアルミじゃないけども)
アルミゴミから作った金型に、いざ射出!

今回製作した金型に、溶接で作った暫定の鉄製コネクタユニットをねじ止めし、

Precious Plastic のインジェクションマシンにいざ固定!

とりゃーーーーー!!!!(伝統的な射出成形の掛け声)

むむむむむ!!
順長に失敗!
今まで作っていたポリプロピレンの六角タイルは250度くらいで射出できていたものの、ピラニアクリップは同じ温度だと最後まで充填できない。
造形の線が細いため、プラが流入する際に金型に熱を奪われやすくて詰まってしまうのだろう、とアタリをつけて、設定温度をこまめに上げる。

温度をあげて試行錯誤すること30分、

惜しい! あとちょっと!

ちなみにこの時点で、すでに3歳の娘と前祝い状態。
射出成形は楽しいなぁ!

最終的には340度くらいまで設定温度を上げて、

できたーーーーーーー!!!!
めちゃんこ嬉しい。
金型も素材もオールゴミ。原価ゼロ円。
(ちなみにペール缶、単管、ドライヤー、鋳造用のプロパン鍋あたりも廃材=0円。CNCももらいもの。)
いやあ、頑張った。
そしてよくできた。人生初の金型づくり。
そもそもなんでこんな頑張って金型を作っているかというと、
要は、
- アルミゴミ拾ってくる → 金型できる
- プラゴミ拾ってくる → 射出成形できる
- つまりは、その辺でゴミを拾ってくるだけで工業グレードの商品が量産できる!!!
というところまで到達した、ということ。
ちなみにゴミから金型を作って成功したのは日本初じゃないかしら?
その後の改良

- アルミ金型に接続用のテーパーねじを切り、作業性を向上。
- 鋳造のスや、CNCの操作ミスで削っちゃったところを耐熱パテで埋める

アルミ製なので耐久性が心配だったけど、その後もずっと使えてます。現在50ショットくらい射出した。
1000ショット(射出のこと)くらいは問題なさそう。

まとめ。 このプロジェクトを通してダイナミックラボが実現したこと

ちょいと昔話になるんだけど、私テンダーが環境問題に関わったのは13年前、青森県の六ヶ所村に一年住んだことから。
以後13年も環境問題に関わっているのだけど、その間ずっと引っかかっていることがあって、それは「日本の環境問題はソフトウェア(=教条)で人を変えようとする」ってこと。
「ごみはこうやって捨ててください」「節電してください」「プラスチックをやめましょう」
日本の環境問題界隈は、お願いすることでヒトの行動原理が変わると本気で信じているのか、もしくはただ単に深く考えていないだけなのか。
何にせよ、私自身はお願いや強いられる教条から自分の行動はまず変えないし、ヒトの行動決定はそんな単純じゃないのでは? と長らく思っていたのでした。
そんな折、実践する科学者、藤村靖之博士に出会う
そんな折、六ヶ所村のご縁で、那須高原に非電化工房を構える藤村靖之博士に出会い、彼の著作を読むようになりました。

氏は世界中の困りごとを発明で解決する発明家で、モンゴル遊牧民のために電源のいらない冷蔵庫「非電化冷蔵庫」を作った方でもあります。
環境要因や地域性といった、収益性以外のあらゆる面を考慮に入れて、
なぜ作るのか? もしくはあえて作らないのか?
もしくはそれを作ることで世界の何がどのように良くなるのか?
といったことを認識している思想家でもあり、私の物を作るうえでの思想上のお師匠さんでもあります。

私がまだ20代だった頃、非電化工房で藤村博士は私に言いました。
「テンダーさん、世界を変えたかったら工学を学びなさい」
世界を変えたかったら、工学を学びなさい。
(その後、何を間違えたか音大卒の私は電気を学び(工学=電気だと思い込んでた)、その間違いから拙著「わがや電力」はできたわけだけども)
その時はあんまりはっきりと意味がわかっていなかったけど、
今だったらわかる。
ヒトが行動を変えるのは、そこにモノがあるから。
たとえばスマートフォンが広まり、紙の地図を買う人は少なくなった。
誰も紙の地図を買うのをやめましょう運動も、デモもストもしていないけれど、多くの人の行動は明確に変わったはず。要はモノが人の行動を変えている。
もっと言えば、この記事を読んでいるあなたが今立っているのも、もしくは座っているのも、床があるか、椅子があるか、何にせよ周辺環境というハードウェアによって「負担なく」規定されているわけです。
さらにいうと、現在の資本主義世界は、機械工学による量産によってできている。物質文明や大量生産というのは機械工学そのもの。
ゴミは、なぜゴミなのか?
ゴミは護美(ごみ)です、とか
ゴミは資源です、とか
態度の伴わない言葉遊びはもうやめよう。
そう言いながら捨てるのであれば、それは実質ゴミのままなので。
小学校の標語づくりのような悠長なことをやっている時間はおそらく人類にはもうなくて、年々強烈になる台風が毎年日本を直撃するくらいに明確な環境問題が、私たちを実際に死に追いやっています。
ゴミをゴミじゃなくすために資本主義社会下で必要なことは、ゴミが有価物に変わること。
アルミ缶を拾ってきたらちょっとやそっとじゃなく儲かる。プラゴミを拾ってきたら生活が成り立つ。
拾ったら儲かるので、そもそも捨てない。捨てられるのを発見したら儲かるので我先にと拾いたい。
そのくらいまで状況を変えるようなハードウェアを作ることができれば、教条やポリシーは一切持ち出さずに人の行動変容を導くことができるのでは、と私は思ったのです。

機械を供給できる人の全世界マップ
そして今、オープンソース、fab、precious plastic の力により、アルミゴミから金型を作れる世界が始まったわけです。
私は、こういうことをやるためにfablabを始めたので、ようやくできたという想いと、まだ道半ば、という想いと。
何にせよ、これからもっと意味のある物を作り始めまーす。
乞うご期待!
テンダーさんやりましたね!おめでとうございます。これスゴイことですよ!金型100万あたりまえ、の常識を知っている人間からすればいかに驚くべきことか。行動でここまで示されたら説得力は半端ないです。まずは感動のまま取り急ぎコメントさせていただきますね。
いよいよ次、、他では置き換えのできないオリジナルの製品提案で人の購買行動をスルリと変えたいですね。(/・ω・)/
おお、ありがとうございます。
次の金型案も既にあるので、あせらずじっくり作ります。
アルミゴミからの金型はダイラボ設立の目標の一つだったので、ようやくひと段落!
おお~次の金型案、そしてついにこじ開けたトビラの先、楽しみです!
また遊びに行きますね。(^^♪
はじめまして、
ネットで検索にかかり全部読まして頂きました。感動しました。おめでとうございます。私も同じくやってみたいと思います。だが、わからないのが一つあります。是非、聞きたいです。
はーい、このページの一番下のお問合せフォームから、ご質問ください。
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